階段と手すり

オカルト寄りの砂場にも行きません。

帰省

以前、人から聞いた話です。

※個人の体験です。

※一部フェイクを入れている部分・創作している部分があります。

 

 

 ある知り合いがほとんど実家によりつかないと言っていた。その理由は何かと、特に深く考える前に興味から尋ねていた。
 これはその人が語ってくれた話だ。

 

 

 僕、田舎の生まれなんです。一応地方都市ですけど、僕の実家があるのは畑と田んぼがある田舎らしい土地のあたりで。駅前とか、国道近くで栄えているところからは離れているところに実家があります。
 そんな田舎だから、近くに同い年の子どももいなくて、小学校に上がる前までは庭で走り回ったり、一緒に住んでいた祖父母が農業を営んでいたのでそれのお手伝いをしたりしてました。祖父母が父と母は仕事に専念してくれってきっと言って、僕の面倒をみてくれてたんです。兄はいましたが、小学校の学童保育の方が楽しかったみたいでいつも父か母に迎えられて夕方に帰ってくるんで保育園に行っていた僕は遊んでもらえなかったんです。
 で、その日は一人で庭の花や雑草をちぎって遊んだり、虫を探したり……まあ子どもを外でほっておいたらするようなことしてました。ああ、実家は農業をやってて土地だけは広くて、庭も他の開発できた家よりずいぶん大きかったです。大人からすればたいしたものじゃないですけど。
 僕はその庭で気にいった遊びがあって、庭の大きな石にときどきとかげがいるんです。そのとかげを見つけた途端、庭に落ちていた園芸用の支える棒、朝顔とかのまわりにさして蔓とかを支えるやつです、で石をつついて追いかけるっていう。とかげが一目散に逃げて、草むらに入って見えなくなるのが楽しかったみたいです。すばしっこくて、僕には捕まえられなかったですし、追いかけて遊んでたんです。
 いつものように庭に落ちていたぼろぼろの棒を持って、よくとかげがいる石を見たら、茶色と金色っぽい色が混じったとかげがいたんです。実家の庭ではよく見る、珍しくないやつでした。
 僕は夢中になって、手に持っていた棒でその石を叩きました。
 でも、何かがいつもと違ってたんですよ。子どもの育ち盛りで急にうまく物が使えるようになったとか、力が強くなってたのに自分では全然気がつかなかったんだと思うんですけど。
 夢中で石を棒で叩いているうちに、いつもはすぐ逃げて見えなくなっているとかげが、石の上に転がっているのに気がついたんです。赤い血が少し石についていて、幼いなりにもとかげを傷つけたんだって、少しずつ分かってきて。僕は棒を放り出して、あたりを見回しました。もし誰かに見られてたら怒られる、だめなことをしたってことだけは確かな気がして、怖かったんです。すると、家の近所の畑から祖母が帰ってくるのが見えたんです。おお、こっち来なさい、よくやった、なんて呼ばれましたが、聞こえなかったふりをして、黙って家の中に駆け込みました。その日はずっと家に引っ込んでいました。
 それから祖母が孫の僕ら兄弟の中で、僕を少しだけ贔屓している気がして。微妙に家族間でぎこちない空気みたいなのを、大きくなるにつれて感じるようになったんです。
 まあ昔ながらの家と僕の性格は肌にどうにも合わないし、田舎も好きじゃなくて大学進学と就職でこっちに来てずっと住んでるんですけどね。
 実は諸事情があって、僕が高校のときに両親が同じ市内で引っ越して、地元にはいるのは変わりないんですけど実家からは離れたんです。
 だから、大学にいってからは、帰省してもほとんど両親が住んでいる家の方へ帰るので実家によりつかなくなりました。だって、帰省は父母のところにいる方が楽ですし、実家に帰らなくても連絡をすれば地元の友人やお世話になった方にも会えますから。
 そんなこんなで大学二年生くらいだったかな。冬休みに入ったとき二週間くらい帰省して、まだ冬休みは続くから下宿に帰らずにあともう少しこのままいようかなって思っていたころでした。母が「おばあちゃんが、あなたに家を継がせる。会えないかって言ってる。継ぐわけないよね?」と聞いてきたんです。藪から棒にっていうことわざ通り、まったく今まで家を継ぐなんて話を祖父母から聞いたことなくて、「そんな話、初めて聞いた。僕に聞かれてないこと勝手に進められて、家を継ぐ以前に、絶対しないのは当たり前なんだけど」と返しました。すると、母は「そうだよね。こっちが断っておいたわ。勝手に決めるなって」とぶつぶつ文句を言っていました。

 家を継ぐっていうのは、まあ勝手に話をされる分には別に構わないんですけど……僕の意思とかまったく関係なく家を継ぐ、継がないって決めているらしい祖父母が何を考えているのか分からないのが怖くて、もう実家には近寄らないでおこうとこの経験以来すごく思いました。それで、とにかくいろいろ言い訳や理由を作って祖父母のいる実家には近寄らないようにしているんです。

 

 この話をしてくれた彼は、いまだに実家に帰っていないそうだ。