階段と手すり

オカルト寄りの砂場にも行きません。

スマートフォンの話

スマートフォンの話です。
体験談です。

 

 

 

 スマートフォンを電車で触っていたとき、駅で停車した。

 乗降する人が多い駅で、私は一旦スマートフォンから目を離し、胸に抱えるようにして扉付近から離れて人の邪魔にならないようにした。その際、一旦画面をオフにしてはいなかったものの、普段見ているニュースサイトなどを見ており、目を離していて画面をタップしても問題ないと思っていた。

 電車の扉が閉まり、駅から電車が動き出し、私は再びスマートフォンに目を落とした。

「殺されている誰かがいます」

 今まで見ていた画面とは違う、見慣れない画面には、そう表示されていた。

 スマートフォンに表示されている画面はほとんど見たことがないもので、ときどき操作を誤って起動してしまう検索補助アプリだろうかと思いながら、画面に表示されている物騒な文字を消そうとして慌て、そのアプリを閉じた。

 そして、そのアプリを閉じてから、画面から目を離しているうちに起動していたのはあのアプリだっただろうかと、心当たりのあるアプリを開いてみた。

 今まで誤って画面をタップしたときに起動した以外では使ったことのないアプリだったが、さっきまで開いていた画面と同じものが表示された。けれども、そこには「調べたい言葉を話してみてください」「画面の言葉を話して検索してみましょう」という説明と「『音楽を聞きたい』と話して検索してみましょう」といったごく当たり障りのない例文が表示されていた。何度かアプリを起動してみても、「あの花は何?」「明日の天気は?」といった例文が表示されるばかりで、内容はいたって平凡な疑問文だった。

 当時、電車で話していた人はほとんどいなかったうえ、誰かが話していたとしてもスマートフォンに認識されるようなはっきりした声を聞いた記憶もない。

 電車の駅ではアナウンスが聞こえていたが、「殺されている誰かがいます」といった言葉に合致する駅名や注意のアナウンスは一切されていなかった。

 今も何か穏やかではない例文が表示されるかと気になり、ときどきアプリを開いては見てみる。だが、

「殺されている誰かがいます」

 という文章が表示されたことは、あれから一度もない。

 また、同じアプリで同様の現象が起こった人がいるかも調べてみたが、見つけることはできなかった。