階段と手すり

オカルト寄りの砂場にも行きません。

金縛りの話

金縛りの話です。
体験談です。

 

 

 金縛り、いわゆる入眠時幻覚というものを私はときどき体験する。

 疲れているとき以外にも、定期的に金縛りに遭いやすい時期があり年に数回は体験している。

 しかし、これらは頭が覚醒しており体は眠っている状態で見る夢のような、頭の誤作動といったものと私は認識しており、たいして怖いとは感じていなかった。心霊現象とされがちではあるが、脳の機能の一つと思えばさして不思議とは思えなかったからだ。

 こういった考えを今までは持っていたが、先日金縛りで初めて幽霊と思しきものを見たため記録に残したいと思う。

 

 ある日の明け方、私はぼんやりと目が覚めてしまい、再び眠るというのを数回繰り返していた。そのとき、部屋が朝日で少しだけ明るくなっているのが見え、まだ朝が早いと眠るのを繰り返していた。

 何度目か、目が覚めたとき。ベッドの縁に見知らぬ中年男性が腰かけているのが目に入った。帽子を被っており、作業着らしい上着を羽織っている。

 物音はしなかった。現実に実態を持った人ではないだろう。

 私は眠気に抗いながら、うっすらとした視界に目を凝らした。すると、その男性は手を伸ばして私の胸を触ってきた。

 眠気のせいかはっきりとした感覚はなかったが、他人が触れてきている無遠慮な手つきが気持ち悪かった。幸運だったのは、寝ている間に体が動いて胸の上に腕が乗っている状態になっていて、直接胸に触れられなかったことだ。

(なんだ、てめえ……ころす……殺す……)

 頭が真っ白になるとは言うが、そのときの私は殺意と怒りで何も考えられなかった。生きている人間だろうと、幽霊だろうが、他人の体を触るやつは許しておけなかった。

 なかなか眠気で体が動かないものの、必死で口元を動かして「おい」と言おうとした。

「お、お……ぃ、い、い……」

 金縛り中でなかなか動かない体では、変に歪んだ声しか出せなかった。

 だが、ベッドに座っていた男性は胸を触っていた手を止めて、私の顔をぎょっとして見つめた。顔の動きや表情まではよく見えなかったが、ばれていないと思っていたことを突きとめられて戸惑っている。そういった様子に見えた。

 こいつ、何かしてくるか……? そう思っていると、その男性は消えた。あとは徐々に夜が明けていって明るくなっていく部屋が見えていた。

 

 金縛りというものは私は夢や幻覚の一種だと思っている。ただし、この日の体験は男性が消えた後に部屋の景色がしっかりと見えたこと、意識が覚醒した感覚があったことから、単なる夢としては片づけてしまうのが難しい体験だった。

 また、男性が消えた直後の私の姿勢は、ベッドに横たわり、片腕が胸の腕に置かれて体勢でいた。つまり、男性が胸を触ってきているときの私の姿勢と同じだった。

 偶然かもしれないが、それにしては不思議な符号で何とも説明がし難い体験だった。