階段と手すり

オカルト寄りの砂場にも行きません。

タクシーと女の子の話

タクシーと女の子の話です。
体験談です。

 

 

 

 学生時代、飲食店でアルバイトをしていた。住宅街と飲食店が並ぶ通りで、普段から人が常に行き交う場所にある店でのアルバイトだった。

 アルバイトを始めてから二ヶ月ほどして、私はあることに気がついた。

 店の近くには公園があり、夕方から夜までのシフトのアルバイトを終えて帰ろうとすると、公園で遊ぶ子どもはまったくいない代わり、近くにタクシーを停めて休憩するタクシードライバーの人たちがいることに。

 確かに、この近辺は飲み屋などの飲食店が多く、飲んでから駅や家に帰ろうとしてタクシーが呼ばれることが多い。それに、住宅街もあるから職場や駅からタクシーを使って直接家に帰る人もいるのだろう。タクシードライバーの仕事については詳しくは知らないが、休憩する場所に公園を選ぶのには夜であれば人が少なく迷惑になりにくい、公衆トイレが使える、煙草やコーヒーで休憩をしやすいのだろうと疑問にも思わなかった。

 

 飲食店のアルバイトをしていて夏頃、夜にアルバイトを終えた私はある光景を目にした。

 公園の前の通りにタクシーを停め、コーヒーか煙草を片手に話しているタクシードライバーの人が二人いる。今日もいるな、夜にも大変だなと横目に見ていた。

 しかし、その二人のタクシードライバーのうち一人の傍に、ピンク色の小さな姿が見えた。何なのだろうとよく見てみると、ピンク色の上着を着ていた小さな子どもだった。すぐ傍のタクシードライバーの子どもかお孫さん、または親戚の子だろうか。大人の腰よりも小さな背に、「保育園に通うくらいの子? 四歳くらいだろうか」と考え、不思議に思った。

 私は夕方から夜のシフトに入っており、アルバイトが終わるのは早くても二一時、普段は二二時半頃に終わる。遅いと二三時を過ぎることだってある。

 保護者らしい人が傍にいたとしても、夜が深くなりつつあるこの時間帯に子どもが外にあるのはあまり見ない。

 だが、タクシードライバーは不規則な仕事だと聞いたことがあり、私は大して不思議にも思わず、むしろタクシードライバーの方が仕事をしながら小さな子どもの世話を見ているのだろうと想像していた。

 

 それから夕方から夜のシフトを終えてアルバイト先の店から帰ろうとすると、ときどきそのタクシードライバーとピンク色の上着を来た女の子らしい子どもの姿を目にするようになった。ピンク色の上着を来た子どもの顔は見たことがなかったが、髪を伸ばしている後ろ姿といつもピンク色の上着を着ているために私は女の子だと勝手に想像を膨らませていた。

 ある夜、その日もアルバイトを終えて帰ろうとしていた。

 公園の隣の通りを通ったとき、近くにタクシーを停めて休憩しているタクシードライバーが二人いた。談笑しているのか、向かい合って片手に缶コーヒーでも持っているように見えた。しかし、片方のタクシードライバーの背丈が頭一つ分大きい。向かい合って立っているタクシードライバーと比べると、頭一つ分、ピンク色をしていて背が大きくぎょっとしてしまった。

 驚きを抑えながらよくよく見てみると、今まで見かけていた子どもがタクシードライバーに肩車をしてもらっているようだった。夜に見たせいで一瞬驚いてしまったが、和む光景だと思いながらその日は帰った。

 

 後日、この話を「こんな光景を夜に驚いてしまったが、よくよく見てみたら単なる笑い話だった」と友人たちに話した。

「でも、タクシードライバーが仕事中に家族を乗せるかな」

「そもそもお世話が必要でも、夜のタクシーの仕事に子どもを連れていくかな」

 私の話を聞いた友人たちは、笑わずに不思議そうに言った。

「言われてみればそうかも」

 私はタクシードライバーの仕事についてほとんど知らなかったため、あいまいに答え、また後日タクシードライバーの人を見かけたらまたよく見てみると話してその話は終わった。

 

 それからも夜にアルバイトを終えて帰るとき、ときどきピンク色の上着を着ている子どもが傍にいるタクシードライバーの方を見かけた。今まで通り、その子はずっとタクシードライバーの傍にいた。けれども、アルバイトを辞めるまでその子どもがタクシーに乗っているところは見なかった。

 今、思い出してみれば、タクシードライバーが子どもを肩車をしていたときに子どもの足を手で支えていなかった気がする。

 そして、あの子どもは夏から冬までずっと同じピンク色の上着を着ていた。

 見ていた当時の私はまったく疑問に思わなかったが、あの子どもは一体どういった子だったのだろうかと少しだけ気になっている。