階段と手すり

オカルト寄りの砂場にも行きません。

ベランダの話

昔に住んでいたところでの話です。

※個人の体験談です。

 

 

 昔に住んでいた場所の話です。

 

 私が昔に住んでいた場所は、比較的長年住んでいた場所と言ってもおかしくはないと思う。土地や建物の詳しい由来などは知らなかったけれども、昔は畑や田んぼばかりだった地域と聞いたことがある。おそらくだが、どういった由来やいわれも特別にはない土地だったのだと思う。

 特別というのは、いわゆる人が亡くなっただとか、歴史があるだとか、大きな事件が起こった、伝統があるといった特徴だ。最近になって開発された住宅街でもなければ、昔から住宅が並んでいたような場所でもない。人が住むようになってからの歴史は比較的浅い場所だったようだ。

 加えて、住んでいた建物自体もごく普通のものだった。

 誰かが住むと思って建てられて、その予定通りに人が住んでいただけだ。

 その割には、私の身内がときどき不思議な現象にあっていた。私も少しだけだが、体験したことがある。この話はそのうちの一つだ。

 

 ある夜、私は部屋で眠っていた。少しだけ暑かった記憶がある、夏ごろのことだ。

 特別何もない日の夜で、少しだけ夜更かしをして本を読んだあと眠ろうとしていた。

 私が眠ろうとして、うとうとしていたときのことだ。ほとんど眠っていて、眠ろうとしてから数十分くらいはしていただろうか。

 ばん! と大きな音がベランダからして、体が固まったまま目がすっかり冴えてしまった。

 何が起こったんだと、目だけを開けてあたりを見回した。月明りでうっすらと部屋の中が見え、カーテン越しにベランダの形が分かった。

 眠っている場所がベランダのある窓のすぐ近くだったため、さっきの大きな音はここからしたのかと思ってベランダを見ていた。わたしは大きな音が急にするのが得意ではないため、何が起こったのか分からず体を起こせなかった。

 すると、もう一度ばん! とベランダを叩きつけるような音がした。その後、みし、みし、とベランダから音が聞こえてきた。まるで人が歩くような音だ。

 洗濯物をするときに聞こえる音がゆっくりと聞こえてきて、わたしは泥棒かと思い、息を殺して窓を見つめていた。部屋は二階にあったが、泥棒は防犯の隙をついてあえて一階以外から侵入するとも聞いたことある。

 猫だろうかと一瞬頭をよぎったが、違うとすぐに分かった。家にいる猫が外に出て帰ってくるときベランダから帰ってくるときもあるが、猫の重さが軽いのかベランダから猫の足音が聞こえたことはない。

 足音の原因は幽霊か、生きている人間か。どちらにせよ起きているとばれたら危ないと予感がした。けれども、もしも生きている人間であれば目を閉じる方が抵抗できずに危ないとおそらく思ったのだ。時間が過ぎるのが遅く、恐怖で心臓の音がばくばくしていたのをよく覚えている。

 しかし、カーテンで覆われた窓に何か物影が映ることはなく、何回かベランダを歩く足音が聞こえただけで音は聞こえなくなった。わたしは本当に泥棒か分からないものに警戒しているのが疲れてしまい、いつの間にか眠ってしまっていた。

 

 次の日、ベランダを見てみると、窓枠にはまっていた網戸が一枚外れてベランダに倒れていた。「何だ、これが音の原因か」と昨日の夜に怖がっていたのを恥ずかしく思いながら付け直した。

 家の人に聞くと、真夜中に一度だけ大きな音がしたと聞いた。その後に聞こえたみしみしという足音は小さくて聞こえなかったのかもしれないと、わたしは昨晩泥棒か、不審者が近くにいたかもしれないから注意した方がいいと昨晩の体験を話した。

 その日の夜、そろそろ寝ようかというときだった。

 ばん! とまたベランダから大きな音が響き、体がびくっとして起きてしまったのだ。驚きながら窓を開けてベランダを見ると、付け方があまかったのか。朝と同じように網戸が一枚倒れていた。夜に付け直すのは面倒だったが元に戻し、再びベッドに横たわったとき、気がついてしまった。

 網戸が一枚外れたとき、大きな音がするのは理解できる。

 だが、その後にもう一度聞こえた大きな音と、足音のようなみしみしという音は何だったのか。朝に外れていた網戸は一枚で、音の原因の説明がつかない、と。それに家の人が聞いたという大きな音は一度だったと言っていた。私が聞いた音と一致しない。

 一体昨晩に聞いた音は何だったのか。ベッドに横になりながら考えてみても、原因は分からないままいつの間にか眠っていた。

 そして、それから数年経ってもあの音を二度と聞くことはなく、わたしは別の場所に住むようになっている。